看護師の仕事を辞めたい人には、いったいどのような理由があるのでしょうか?
「毎日目が回るほど忙しい」「夜勤がつらい」「仕事が覚えられない」「性格的に向いていないかも…」
せっかく国家試験に合格して、憧れの看護師になったのに、退職や転職を考えるような状況になってしまっているのは悲しいことです。
しかし、そうした人はあなただけではありません。
看護師になって間もない新人も、3年、5年と経験も積んで、さてこれからという人も、10年以上看護師を続けてきた人も、それぞれの立場の中で悩んでいるのです。
それぞれの辞めたい理由、どう考えて決断すればいいのか、そのために自分を振り返るポイントを紹介します。
看護師の仕事を辞めたい(辞めた)人はどのくらいいる?
統計を見る限り、看護師の離職率は特に高いわけではありません。
むしろ、他の職種の全国平均より少し低いぐらいです。
平成24年の厚生労働省の「雇用動向調査結果」をみると、全国の正規就労者は3,463万人で離職者は398万人ですから、離職率の全国平均は11.5パーセントとなります。
参考:厚生労働省「平成24年雇用動向調査結果の概況」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/13-2/kekka.html#01
一方看護師はというと、同じく厚生労働省平成24年の資料によると、全国で約154万人が看護職員(保健師、助産師を含む)として働いており、そのうち、16万人が離職していますので、離職率は10.4パーセントになります。
参考:厚生労働省「看護職員の現状と推移」http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000072895.pdf
看護師は責任が重い上、重労働のイメージが強いです。しかし、大変だからといって安易に職を転々とするという人が特に多いわけではないということがわかります。
そして、データによると、離職した人のうち14万人は看護職として再就職し、残り約2万人は看護以外の道に進む、あるいは無職となっています。
専門の学校に通ってせっかくとった国家資格の専門職ということもあり、看護師を完全に辞めてしまう人はそれほど多くはありません。
裏を返せば、職場で悩みを抱えても、看護師の仕事が自分に合っていないと思っても、辛抱してそのまま仕事を続けているとも受け取れます。
「なぜ辞めたいのか?」−−理由を明確にする
看護師の仕事を辞めたいあなたへ、1つ目の質問です。
「なぜ辞めたいのか?」
まずはこれをしっかり考えてみましょう。
楽しいこと、やりがいのあることは、放っておいても続いていますね。
しかし、嫌なことやつらいことは自然とやらなくなります。
仕事を辞めたいと思った時は、まずその理由を明確にすることが大切です。
以下のように看護師を辞めたくなった理由をタイプごとに分けてみました。
1. キャリアアップタイプ
働き始めて3〜4年目の人に多いのが、キャリアアップタイプです。
一通りのスキルもついたし、職場や仕事にも慣れてきた、けれど給与があまり上がっていない、という悩みです。
このまま同じ病院に勤務し続けたほうがよいのか、それとも他に待遇のよい所を探したほうがよいのか、難しいところです。
とはいえ、このタイプの人は、キャリアアップしたいという前向きな悩みを持っているといえます。
より自分らしく働きやすい職場、待遇の良い職場を求めて別の病院・医療機関や看護師の資格を活かせる転職先を積極的に探そうとします。
2. 自信喪失タイプ
新人〜1年目の人と、3〜4年の経験者両方に見られる、辞めたい理由です。
新人〜1年目の人の場合は、「仕事が大変で自分に自信が持てない」「仕事が覚えられない」あるいは、「先輩指導員であるプリセプターと相性が合わない」「もっと教育研修制度が充実した職場に行きたい」というのが悩みです。
これらは看護師に限らず、多くの新入社員が陥る共通の悩みといえます。
3〜4年の経験者の場合は、「3年もやったけれど、自信を持てない」「向いていないのかも」と、悩みの種類は新人〜1年目の人と同じです。
しかし、数年間の経験があるため、看護師としての自らの適性に疑問を持っている人が多く、他の病院に変わるというよりも、職業自体を変えることも真剣に考えている、という点に特徴があります。
3. ストレスタイプ
この悩みは、働き始めて5年目ごろに持つ人が多いようです。
「仕事はある程度できるようになったけれど、責任が重くなった」と感じて、ストレスがたまって辞めたくなるのです。
また、5年目前後の人は20代半ばを過ぎ、特に女性は結婚を意識し始める時期でもあるため、出会いを求めて、夜勤のない職場や土日に休める勤務先を希望するケースもあります。
4.その他、各年代共通の悩み
その他、勤続年数にかかわらず共通の辞めたい理由として、以下のようなものがあります。
・給料が低い
厚生労働省や国税庁のデータを見ると、看護師の平均年収はおよそ480万円で、これは、決就労者全体の平均よりも60万円ほど高いのです。
給料が低いと感じる人は、仕事量や責任の重さから考えると、もっとたくさんもらっていいのでは?ということかもしれません。
待遇については、勤務先によって異なりますから、満足できないようであれば、条件のよい所を探して転職を考えることになります。
・仕事が忙しい−−夜勤がつらい、休みが少ない、家庭・子育てと両立できないなど
勤務条件や待遇は自分だけで改善するのは難しい問題です。まずは上司や人事担当者などに相談してみましょう。
どうしても改善の余地がないようであれば、勤務先を変えるのも選択肢です。
入院施設のない医院や診療所なら夜勤はありませんし、「託児所あり」の施設なら、育児との両立も可能です。
・人間関係がよくない
どの業界、どの職種でも同じ悩みを持つ人はたくさんいます。
「自分からあいさつをする」「笑顔で接する」「人の悪口を言わない」などちょっとした心掛けで改善することもありますので、辞める前にまず自ら工夫をしてみましょう。
職場の人間関係については、
・業務を覚えられない
何年も勉強して国家試験も合格した人が、仕事を覚える能力がないはずがありません。
「メモを取る」「分かるまで質問する」「大事な仕事の前には手順を確認する」など、仕事のやり方、覚え方を工夫してみましょう。
特に新人で真面目な人ほど、自分の技術以上のことまでやろうとしたり、一度にいろいろなことを覚えようと、無理をして落ち込む、という傾向があるようです。
まずは、先輩や同期の人に気軽に相談してみてはいかがでしょう。
・医療ミスが怖い
医療ミスのほとんどは、ヒューマンエラーです。人間は思い込みや錯覚によって、時にとんでもないミスをしてしまいます。
ヒューマンエラーを防ぐには、個々の知識や技術もさることながら、注意力、それからコミュニケーションが大切です。
普段から、病気や症状、薬について基本的なことは勉強しておく、患者さんの名前をしっかり確認する、医師からの指示を復唱する、などを心掛けるだけでもミスを防げます。
あなたの勤めている職場では、そうした取り組みは行われていますか?
「おかしいな」「分からない」ということに出会ったら、迷わずに誰かに聞く、そんな雰囲気を自分からつくっていってはどうでしょうか?
簡単なことではないかもしれませんが、あなたが積極的に質問したり、ミスを防ぐためのメモ書きをしたりすることで改善できることはあります。
・奨学金制度
辞めたいけれど辞められない理由として、奨学金制度いわゆる「お礼奉公」を上げる人もいます。
該当する人は御存知の通り、奨学金制度とは、病院などの勤務先が、看護学校に通っている間の学費・生活費を支給する代わりに、3〜4年間はその病院に勤めることを約束させるものです。
この制度には、両親に経済的負担をかけることなく資格が取れる、というメリットがあり、多くの人がその恩恵に浴しています。
しかし、お礼奉公期間中に辞めてしまうと、奨学金の一部を返還しなければならないこともあり、我慢して勤務を続けるケースもみられます。
一方で、体調を崩したり、職場の人間関係が悪化したりで、仕方なく退職や転職をしてしまう人もいます。
奨学金の返還請求があった場合は、契約書を確認し、不明な点がある場合は、弁護士など専門家に相談してみましょう。
「自分はどうありたいのか?」−−自分を見つめる
2つ目の質問です。ここでは関連していくつかの方向から考えてみていきます。
さきほど、、タイプ別の悩みや辞めたい理由をみてきました。
理由やタイプは人それぞれです。辞めたくなった時にはまず、自分の状況を客観的に見つめることをお勧めします。
その上で、「自分はどうありたいのか?」「譲れないものは何か?」という問いを自らに問いかけてみてください。初心に帰る、原点に戻るということです。
看護師を目指した理由や、学び始めた頃の志を思い起こしてみるとよいでしょう。
次に、「仕事(職業)が嫌なのか、職場が嫌なのか?」を確認しましょう。
看護師という仕事が嫌なのであれば、職場を移ってもいずれ同じ問題に突き当たります。違う仕事を考えてみる必要があるでしょう。
いまの職場が自分に合っていないのであれば、もっと自分を生かせる場所を探すのは、前向きな行動といえます。
最後に「どんな時にやりがいを感じるか?」を考えてみましょう。
これは、最初の質問と関係していますが、仕事をする上でやりがいや喜びを感じ、達成感を味わった経験を思い出してみるのです。
そして、同じ体験を重ねるには、どのような環境で、どのような心持ちで働けばよいのか考えてみましょう。
もしかすると、いまの職場を辞めなくても、雰囲気や心持ち、やり方を変えるだけで、環境を変えられるかもしれません。
「どうすれば解決するか?」−−改善策を考える
さて、自らを見つめ直して、辞めたい原因がはっきりしたら、それを解決するアクションを起こしましょう。
3つ目の質問は、これまでを踏まえて、「いまの自分がとれる行動としては何かあるか?」です。
・上司・先輩・同僚に相談する
もし、いまの職場に信頼できる上司や先輩、同僚がいれば、まず率直に打ち明けてみてはいかがでしょうか?
そのとき、単なる愚痴や不平ではなく、環境改善の提案をしたり、自分がやりたい仕事や希望の診療科などを申し出たりできるよう、前向きな話し合いになるよう心がけましょう。
・キャリアプランを立てる
人間には短期的なゴールと中長期のゴール両方が必要です。目の前の小さなゴールを達成しながら、それがさらに大きなゴールに結びついていく、そうした行動の連続が人を成功へと導きます。
看護師を天職とするのであれば、5年後、10年後、20年後、30年後の自分のキャリアプランを立ててみましょう。
もちろん、仕事に明け暮れるのではなく、人生プランと連動した、うるおいのある計画である方がよいとですね。
逆に、看護師に向いていないという結論になった場合でもキャリアプランは必要です。
その場合、まず「自分が何をしたいのか」「何が好きなのか」といった、根本的なところからゴールを見つけていくことになります。
看護師以外の仕事に転職する場合は、ゼロからキャリアを作っていく必要があります。
最悪の場合、フリーターや非正規の仕事しかできずに、どんどん生活が悪化します。
半年や1年後に思い直して、看護師として再就職しようとしても、ブランクのある人はなかなか良い条件の就職先が見つからないことも多いので注意が必要です。
・転職を考える
「上司や先輩に相談しても改善の見込みがない」「今の職場が自分の中長期のゴールと合っていない」そう感じたら、転職を考えましょう。
きちんとした目的や方向性が定まっていれば、転職は前向きなキャリアップにつながります。
ただし「いまの職場が嫌だから」「とにかく給与がいい所に変わりたい」という、現実逃避、目先の利益だけの理由で転職するのは避けましょう。
そのうちまた同じような壁に突き当たることになってしまいます。
いい条件での転職に成功するための行動は?
さて、転職を具体的に考える所まできたら、自分のゴールに沿った職場探しをしましょう。
自分に合った職場を探す
高齢化社会を迎え、看護師の職場は今までよりも幅広いものになっています。
従来からある病院、医院、診療所のほか、老人介護施設、訪問看護、ケアマネージャー、治験コーディネーター、健康相談のコールセンター、医療機器のサポートセンター、看護師向けの転職エージェントなど、看護師の資格を生かせる場所は広がっています。
資格を積み上げる
看護師としてキャリアアップを図るのであれば、特定分野の専門看護師の資格をとって、専門性を磨くという手もあります。
「専門看護師」や「認定看護師」の資格を取得すれば、待遇面でのアップが期待できますし、将来の転職もしやすくなります。
参照:日本看護協会「資格認定制度」http://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cns
マネジメントを学ぶ
また「認定看護管理者」の資格を取ると、より高水準の職務や職場に異動・転職するチャンスも出てきます。
認定看護管理者の資格を取って、さらにマネジメントスキルを身につけると、病院経営に参画できる機会も出てきます。
看護師の仕事だけでは物足りないと思っている人は、目指してみるのもいいでしょう。
いずれの資格を取るためには時間と費用がかかりますので、覚悟と計画的な準備が必要ですが、チャレンジのしがいはあると思います。
転職サイトを活用する
別の病院などで働く看護師の友達の口コミもいいですが、どうしても狭い世界の限られた情報になってしまいます。
また、いまの業務を続けながら転職先を探すのは、時間もエネルギーも必要……そんなとき、頼りになるのが看護職専門の転職サイトです。
転職サイトに登録することは難しくありませんし、料金も掛かりません。また、転職アドバイザーがいろいろな相談に乗ってくれます。
「これだけはやりたくない」「絶対にこれだけは嫌」という点をはっきりとさせて、絶対に譲れない条件は妥協しないようにしましょう。
転職によいタイミングは?
春先は新人が入って来るため、比較的人手が足りている時期です。そのため求人はあまり多くありません。6〜7月と10〜11月頃に好条件の求人が増える傾向があります。
また、転職には応募から書類選考、面接など時間がかかります。
いまの職場を辞めるにしても1カ月前に通知するのが常識ですので、通常2〜3ヶ月の期間をみて、ゆとりを持った計画を立てましょう。
看護師を続けるかどうか、しっかり考える
看護師は、人の命に関わる大切な仕事です。
最低3年は学校に通い、国家試験にも合格して、ようやく認められる誇れる専門職です。
「辞めたい」と思ったら、まず原点に立ち返って、自らの志を見つめ直してみてはいかがでしょうか?
高齢化社会を迎えて、看護の重要性はますます高まってきます。
せっかくの専門知識とスキルが十分に生かされないのは、社会にとっても大きな損失です。
もっと楽な仕事はほかにたくさんありますが、お給料の高い仕事はそう多くはありません。
立ち止まって、よく考えて、自らのキャリアをしっかり切り開いていきましょう。
あなたがよい選択をできますように。